承認欲求を満たすことで相手を動かす
人間が求めているものはそう多くありません。どうしても満たしたい欲求は八つあります。すなわち、食欲、性欲、睡眠欲という三大欲求のほかに、金銭欲、健康欲、来世の幸せ、子供の幸せ、自尊心です。この中で特に満たされにくいのが、自尊心です。つまり、自分を重要な人間として扱ってほしいという願望です。
自尊心の重要性
エイブラハム・リンカーンは「すべての人は褒められるのが大好きだ」と述べ、心理学者のウィリアム・ジェームズは「人間の本質の中で最大の特徴は、重要な人間として認められたいと熱望していることだ」と言いました。この言葉の中で「願っている」ではなく「熱望している」という強い表現が使われていることに注目してください。人々は賞賛の言葉に飢えており、その心の渇きを誠実な気持ちで満たすことができる少数の人は、相手の心をつかむことができます。
自尊心と文明の進歩
自尊心を満たしたいという思いは、動物にはない人間の最も顕著な特徴のひとつです。人々は努力して成果をあげることによって、それを周囲の人に認めてもらい、自分を重要な人間として扱ってほしいのです。もし私たちの先祖が自尊心を満たしたいと思わなかったら、文明は進歩しなかったでしょう。もし自尊心を満たしたいという思いがなければ、私たちは今もまだ動物とほとんど変わらないはずです。
自尊心を満たすために、食料品店に勤務する貧しい無学の店員は一念発起して法律の勉強に没頭し、弁護士になりました。彼の名はエイブラハム・リンカーンです。また、実家が破産の憂き目にあって極貧の生活を強いられながら、『二都物語』や『クリスマス・キャロル』などの小説を書き、イギリスの国民的作家になったチャールズ・ディケンズも、自尊心を満たすために努力した人物です。
人を動かす方法
人をうまく動かす方法は一つしかありません。それは、相手がそうしたくなるように働きかけることです。確かに、銃を突きつけて相手に言うことを聞かせることもできるでしょう。クビにすると脅して従業員に協力を求めることもできるかもしれません。ムチで叩いて子供を命令に従わせることもできます。しかし、そんな手荒いやり方は好ましくない結果を引き起こします。
人をうまく動かす唯一の方法は、相手が求めているものを与えることです。それは何か?二十世紀最高の心理学者の一人、フロイトによると、人間の行動には二つの動機があります。性欲の充足と、偉大な人物になりたいという欲求です。アメリカの思想家ジョン・デューイは少し違う表現を使いました。「人間の最も強い衝動は、重要な人間になりたいという欲求だ」というのです。誰もが重要な人間として扱われたいという欲求を持っています。だから、相手のそういう欲求を満たすことが、人を動かす秘訣です。
【セルフワーク】
相手の具体的な行動や成果を挙げて褒めましょう。相手が達成したことに対して感謝や承認を表現しましょう。